藤井風さんの「きらり」は、なぜこれほどまでに多くの人を魅了し続けるのでしょうか。
Honda「ヴェゼル」CMソングとして2021年に登場して以来、その人気は留まることを知らず、ストリーミングは5億回再生を突破する記録的なヒットとなりました。
この記事では、そんな「きらり」の基本的な情報から、2021年の紅白歌合戦での伝説的なパフォーマンス、Spikey Johnが監督したMVのロケ地、そして難解ながらも美しい歌詞に込められた深い意味まで、専門家の視点で徹底的に解剖します。
- HondaヴェゼルCMでの衝撃と5億回再生の記録
- 2021年紅白歌合戦での伝説的パフォーマンス
- Spikey John監督のMVと振り付けの秘密
- 歌詞の深い意味とYaffleによる音楽性の分析
藤井風「きらり」の記録的ヒットと楽曲の基本情報
- 2021年HondaヴェゼルCMでの衝撃
- 5億回再生を突破したストリーミング記録
- 2ndアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』収録
- 2021年紅白歌合戦での伝説的パフォーマンス
2021年HondaヴェゼルCMでの衝撃
藤井風さんのキャリアを語る上で欠かせない楽曲「きらり」。この曲は2021年5月3日に配信限定シングルとしてリリースされました。作詞作曲はもちろん藤井風さん自身が手掛け、サウンドプロデュースはデビュー以来の盟友であるYaffleさんが担当しています。
この曲が世に知られる大きなきっかけとなったのが、2021年4月22日から全国で放映が開始されたHondaの新型「VEZEL」e:HEVのテレビCMです。藤井風さんにとって、これが初めてのCM書き下ろし楽曲となりました。当時、彼は2020年のデビューアルバム『HELP EVER HURT NEVER』で既に音楽ファンの間で圧倒的な評価を確立していましたが、このタイアップは、彼の音楽を日本中の「お茶の間」へと一気に浸透させる戦略的な一手となりました。
CMのテーマは「GOOD GROOVE」。まさにそのテーマを体現するかのように、爽快でダンサブル、そして洗練された「きらり」のサウンドは、新型ヴェゼルのイメージと完璧に融合しました。単なるBGMではなく、楽曲そのものがCMの主役級の存在感を放ち、視聴者に「この曲は誰の曲だ?」と強烈な印象を残すことに成功したのです。
| 項目 | 詳細 |
| 楽曲名 | きらり (Kirari) |
| アーティスト | 藤井風 (Fujii Kaze) |
| リリース日 | 2021年5月3日(配信限定) |
| 作詞・作曲 | 藤井風 |
| プロデュース | Yaffle |
| 収録アルバム | 『LOVE ALL SERVE ALL』 (2022年3月23日発売) |
| タイアップ | Honda「VEZEL」CMソング |
5億回再生を突破したストリーミング記録
「きらり」のヒットは、その圧倒的なストリーミング再生回数にも表れています。Billboard Japanのチャートにおいて、2024年3月時点で累計再生回数が5億回を突破するという、まさに金字塔を打ち立てました。
2021年5月12日公開のチャートで12位に初登場すると、CMのオンエア拡大と共に再生数を伸ばし、わずか16週目という驚異的なスピードで1億回再生を達成。その後も勢いは衰えず、35週目で2億回、59週目で3億回、95週目で4億回、そして148週目(2024年3月)で5億回の大台を突破しました。
この数字が示すのは、単なる「一過性のバイラルヒット」ではないということです。リリースから3年以上が経過してもなお、コンスタントに聴かれ続けているという事実は、「きらり」がJ-Popの「エバーグリーン・スタンダード(時代を超えて愛される曲)」になったことの証左です。
このロングヒットの背景には、藤井風さん自身の「エコシステム」とも呼べる相乗効果があります。例えば、後に「死ぬのがいいわ」が海外のSNSで火が付き、世界的にバイラルヒットとなりましたが、この「逆輸入」的な人気が、再び国内のリスナーに「きらり」を含む彼の過去曲を再発見させるきっかけを作りました。一つの曲のヒットが、アーティスト全体の魅力を掘り起こすという好循環が、「きらり」を5億回再生という高みへと押し上げた要因の一つと言えるでしょう。
2ndアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』収録
「きらり」は、2022年3月23日にリリースされた藤井風さんの2ndアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』に収録されています。シングルとして「きらり」がリリースされたのが2021年5月、アルバムはその約10ヶ月後というタイミングでした。
この10ヶ月間、「きらり」はCMソングとして、そして2021年を代表するヒット曲として、多くの人々に愛され続けました。そのため、『LOVE ALL SERVE ALL』において、「きらり」はアルバムの「アンカー(錨)」、つまり中心的な支柱としての役割を担っています。
デビューアルバム『HELP EVER HURT NEVER』が、彼の内省的でソウルフルな側面を深く掘り下げた作品であったのに対し、『LOVE ALL SERVE ALL』は、より開かれた、祝祭的でグルーヴィーなエネルギーに満ちた作品です。「きらり」の持つ、軽やかで希望に満ちたサウンドは、まさしくこの新しい時代の幕開けを象徴する楽曲でした。
アルバムに収録されることで、「きらり」は単なる大ヒットCMソングという文脈から、アーティスト・藤井風のより大きな哲学的メッセージの一部として再定義されます。「LOVE ALL SERVE ALL(すべてを愛し、すべてに仕えよ)」というアルバムタイトルが示す通り、「日常の瞬間(きらり)に神聖さを見出す」という楽曲のテーマが、アルバム全体のコンセプトと深く響き合っているのです。
2021年紅白歌合戦での伝説的パフォーマンス
2021年の大晦日に放送された「第72回NHK紅白歌合戦」への初出場は、「きらり」のヒットを決定的なものにし、藤井風というアーティストの存在を日本全国に知らしめた伝説的なパフォーマンスとなりました。
その演出は、これまでの紅白の歴史でも類を見ない、実に彼らしいものでした。番組が中盤に差し掛かった頃、中継が繋がった先は、東京国際フォーラム・ホールAではなく、岡山県里庄町にある彼の実家でした。リラックスした様子で、キーボードを膝の上に乗せたシンプルなスタイルで「きらり」の弾き語りを開始。その親密でオーガニックなパフォーマンスは、彼が「岡山から出てきた謙虚な青年」であるというルーツを全国の視聴者に印象付けました。
しかし、ハイライトはその直後に訪れます。曲が終わると、藤井風さんはカメラを抱え込み、画面が暗転。次の瞬間、カメラが離れると、そこに映っていたのは実家ではなく、東京国際フォーラム・ホールAのステージに「ワープ」した藤井風さん本人でした。呆気にとられる会場と視聴者をよそに、彼はそのままステージ中央のグランドピアノに向かい、今度は「燃えよ」を圧倒的な熱量で披露したのです。
この一連の流れは、単なるサプライズ演出ではありませんでした。「実家の謙虚な青年」と「スタジアム級のスーパースター」という、彼が持つ二面性を見事に表現した、完璧なブランド・ストーリーテリングでした。このパフォーマンスにより、彼は「CMソングを歌う人」から、「藤井風」という一つの「現象」として、日本中の人々の記憶に刻み込まれることになったのです。
藤井風「きらり」のMV・歌詞・音楽性の徹底解剖
- 監督Spikey Johnが描くMVのロケ地
- 振り付け(Quick Style / 岡本晋吾)の秘密
- 歌詞に込められた「きらめき」の意味を考察
- プロデューサーYaffleと創る音楽的特徴
監督Spikey Johnが描くMVのロケ地
2021年5月21日に公式YouTubeチャンネルで公開された「きらり」のミュージックビデオ(MV)は、楽曲の持つ解放感を視覚的に増幅させる、鮮烈な映像作品となっています。監督を務めたのは、若き映像作家のSpikey John氏です。
このキャスティングは非常に示唆に富んでいます。Spikey John氏は、藤井風さんの初期の楽曲「もうええわ」のMVも担当していました。「もうええわ」のMVが、夜の渋谷を舞台にした、内省的でダーク、どこか閉塞感のある映像だったのに対し、「きらり」のMVは、広大な空と海、近未来的な都市を背景に、光と風の中で踊る、解放感に満ちた作品となっています。
同じ監督を起用し、これほどまでに対照的な「影」と「光」を描き出すことで、藤井風さん自身のアーティストとしての振り幅と進化を、視覚的にも強調する意図があったのではないでしょうか。
主なロケ地となったのは、千葉県の海浜幕張エリアです。特に、幕張ベイタウンや「エムベイポイント幕張」周辺の、整然とした近未来的な都市景観が印象的に使われています。これらの広大で無機質なコンクリートの空間が、逆に藤井風さんの身体性やダンスの「生」のグルーヴを際立たせています。このロケ地の選択は、「新しい日々」を象徴する「新しい街」で、過去から解き放たれて自由に踊るという、楽曲のテーマのメタファーとしても機能しているのです。
振り付け(Quick Style / 岡本晋吾)の秘密
「きらり」のMVで印象的な、あの軽やかで思わず真似したくなるダンスにも、緻密な戦略が隠されています。MVのクレジットには、「Choreography by Quick Style」そして「Dance Director|Shingo Okamoto」と記されています。
Quick Styleは、世界的に活躍するノルウェーのダンスクルーであり、そのバイラル性の高い振り付けは世界中で知られています。彼らが大枠の「グルーヴ」を作り、それを日本のトップダンサー・振付師である岡本晋吾氏が「ダンスディレクター」として、藤井風さんというアーティストの身体に落とし込んでいく。この共同作業が、あの唯一無二のダンスを生み出しました。
「きらり」の振り付けは、高度なテクニックを誇示するものではありません。むしろ、誰でもアクセスできる「楽しさ」や「心地よさ」を重視しています。これは、HondaのCMテーマであった「GOOD GROOVE」とも直結しています。観る人に「ダンス」をさせるのではなく、「グルーヴ」を感じさせること。
岡本晋吾氏は、JO1やKing & Princeの振り付けも手掛ける実力者ですが、ここでは藤井風さん自身の持つ天性のリズム感や「抜け感」を最大限に引き出すことに注力しているように見えます。だからこそ、あのダンスは「簡単そうに見えて、同じ雰囲気で踊るのは恐ろしく難しい」のです。それは技術の模倣ではなく、内面から溢れ出すグルーヴそのものの表現だからです。
歌詞に込められた「きらめき」の意味を考察
「きらり」の歌詞は、その全てが藤井風さん自身によって書かれています。タイトル「きらり」とは、一瞬の閃光や輝きを意味する擬態語です。この曲で彼が伝えようとしているのは、一見するとシンプルなラブソングのようでありながら、その実、非常に深く、普遍的な哲学です。
最も象徴的なのは、「新しい日々も 拙い過去も 全てがきらり」という一節でしょう。これは、未来への希望だけでなく、失敗や後悔を含む過去さえも、すべてが等しく価値があり、輝いているという「絶対的な肯定」のメッセージです。
そして、多くのリスナーが考察するのが「君」という言葉の存在です。「あれもこれも魅力的でも 私は君がいい」「どこにいたの 探してたよ」と歌われる「君」は、もちろん特定のパートナーや愛する人を指していると解釈できます。
しかし、藤井風さんの持つスピリチュアルな側面や、自己愛(セルフラブ)を一貫して歌ってきた背景を鑑みると、この「君」は「もう一人の自分」や「高次の自己(ハイヤーセルフ)」、あるいは「神性」といった、内なる存在を指しているとも解釈できます。そう捉えると、「どこにいたの 探してたよ」というフレーズは、他者への探求ではなく、自分自身の本質と出会えた瞬間の喜びを歌った、深遠な「自己発見の歌」として響いてきます。
プロデューサーYaffleと創る音楽的特徴
「きらり」が持つ「何度聴いても飽きない心地よさ」は、藤井風さんのメロディセンスと、プロデューサーYaffleさんの緻密なサウンドプロダクションの賜物です。
この曲の基本データは、キーがDメジャー、BPM(テンポ)が117。ジャンルとしては、ファンキーなディスコサウンドが融合したダンス・ポップに分類されます。しかし、その爽やかな聴き心地の裏には、ジャズやR&Bの高度な音楽理論が「隠し味」としてふんだんに盛り込まれています。
音楽的に分析すると、この曲はダイアトニックコード(そのキーの基本的な和音)以外のコードを意図的に多用しています。例えば、Bメロで使われる「Gm7」はサブドミナントマイナーと呼ばれる、切なさを演出するコードです。また、サビでは次のコードへの推進力を生む「セカンダリードミナント」や、ジャジーな響きを持つ「♭9(フラットナインス)」のテンションノートが効果的に使われ、疾走感を生み出しています。
こうした高度なテクニックを、難解に聴かせるのではなく、誰もが口ずさめる「ポップス」として完璧にパッケージングする。これこそが藤井風さんとYaffleさんのタッグの真骨頂です。
そして、この音楽的構造は、歌詞のテーマともシンクロしています。「あれもこれも魅力的でも」という歌詞のように、Dメジャーという世界に、他のキーから様々なコードを「借りて」きて、それら全てを「きらり」と輝かせる。音楽そのものが、歌詞のメッセージである「多様性の肯定」を体現しているのです。
総括:「きらり」が照らし出す、藤井風という現象
この記事のまとめです。
- 「きらり」は2021年5月3日に配信リリースされた
- 作詞作曲は藤井風、プロデュースはYaffleである
- Honda「VEZEL」CMソングとして書き下ろされた
- 藤井風にとって初のCMタイアップ曲であった
- ストリーミング累計再生回数は5億回を突破している
- この記録は「バイラルヒット」でなく「エバーグリーン」な人気を示す
- 2ndアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』に収録されている
- 2021年の第72回NHK紅白歌合戦で初出場し披露
- 紅白では岡山の実家から中継し、東京へ「ワープ」する演出が話題となった
- MVの監督は「もうええわ」と同じSpikey Johnが務めた
- MVのロケ地は千葉県の海浜幕張エリアである
- 振り付けはQuick Style、ダンスディレクターは岡本晋吾が担当
- 歌詞の「君」はパートナーと「高次の自己」の二重の意味と考察される
- 「新しい日々も拙い過去も全てがきらり」という歌詞は彼の哲学の核心である
- 音楽的にはジャズ理論を多用した高度なコード進行が特徴である

